2020年3月時点の世界銀行の報告書によれば、東アジアと太平洋地域の国々の貧困層の約2400万人が、コロナウィルスの感染拡大による貧困レベルの悪化によって、更に深刻な人道的危機にさらされることを伝えている。
事態を悪くしているのは、コロナウィルスという未知の感染病による健康や生命維持に対する危機のほか、ロックダウンなどの国の措置によって日々の生業を失うことによる経済的損害という二つの大きなリスクが起こることだ。
同報告書では、東アジアなどの地域においてコロナウイルスによる影響を特に受けやすい業種として、ベトナム、カンボジアなどの「製造業」や、タイ、太平洋諸島の「観光業」を取り上げている。
そんな中、各国で具体的な支援活動を始める人々もいる。
ベトナムは、ロックダウンの間、約500万人が経済活動をストップせざるを得ず、生計を立てられない状態になっている。しかしそのベトナムで、貧しい人々を飢餓から救うべく斬新なサービスを普及させている人物がいる。同国でセキュリティサービス会社を営むHoang Tuan Anh 氏である。
ベトナムは、厳格な水際対策や国が一丸となっての社会行動抑制や都市封鎖の対応が奏功し、コロナウィルスによる感染被害は国際的にみても比較的少ないといわれている。しかし、その徹底した感染拡大防止措置により、経済的弱者である貧困層は、収入源は絶たれ、その生活が困窮を極めている。そこで彼が考え付いたのが無料の「お米ATM」である。
第1号を設置したのはホーチミン市内。そのATMからは、一回につき約1.5kgの米を出すことができる。最新のテクノロジーを駆使した機械ではないものの、そのシンプルさゆえに、効果を発揮しているという。
Hoang Tuan Anh 氏は当初、限られた期間のみ、このATMを稼働させることを考えていたが、このATMの社会貢献度の高さや、COVID-19の先が読めない事態を考慮し「(コロナウィルスが終息した後も)貧しい人々のための一つのサービスとして運営し続けることを望んでいる」という。現在、ハノイ、ダナン、メコンデルタを含む全国の30か所に設置された。同氏の活動に賛同した国内外の1,000人以上のスポンサーからの支援もあり、同氏は「最終的に100程度のATMを開設したい」と話している。
課題解決に、高度な技術や複雑なビジネスモデルが必要とは限らないことを語る好例と言えるのではないだろうか。
この例のように、パンデミックという特殊な社会情勢に翻弄され、困窮する人々の課題に、簡易かつ迅速に、そして効果的に働きかけられる解決法が、今、求められている。