国連開発計画(UNDP)と日本の民間企業が連携し、ビジネスで途上国の課題を解決する ~Japan SDGs Innovation Challenge~ 3年目の活動実施中

SHIPのファウンディングパートナーである国連開発計画(UNDP)は、世界91ヵ所にUNDP Accelerator Labs(A-Labs)を展開し、現地の政府や様々な団体、そして民間企業と連携しながら、SDGsの達成をめざして、開発課題の新しい解決策を創出し、実践する活動を進めています。

この活動を加速するために、各国のA-Labでは、先進国の民間セクターとの連携も積極的に進めています。2020年度からは日本の内閣府からの拠出金を原資に、日本の技術とノウハウを活用した解決策を日本企業とA-Labとが共同で検討・検証するとともに、日本企業のビジネスモデルを構築するプロジェクト「Japan SDGs Innovation Challenge」を実施しており、その運営をSHIPが支援しています。

このプロジェクトは、2019年に発行されたISO 56002(イノベーション・マネジメントシステム)に定義されているイノベーション活動のプロセスに沿って実施しており、このプロセスの「コンセプト(解決策)の創造」と「コンセプト(解決策)の検証」に重点を置いています(下記プロセス図参照)。




2020~2021年度にはフィリピン、ベトナム、インド、トルコ、マラウイでプロジェクトを実施し、2021年度にはマレーシア、ブルキナファソ、南アフリカでプロジェクトを実施しました。2022年度にはジンバブエ、サモアでのプロジェクトを開始するとともに、マレーシアでの第2フェーズも進められています。
(参照:2020年度の活動

           Japan SDGs Innovation Challengeプロジェクト一覧


Japan SDGs Innovation Challengeは、プロジェクト実施期間中で活動が完結するのではなく、プロジェクト後も日本企業とUNDP A-Labが連携し、課題解決策の実行・拡大と日本企業の現地でのビジネス化が進められます。有人宇宙システム株式会社(JAMSS)の衛星画像分析技術を活用し、河川や海にプラスチックゴミが大量に流出しているホットスポットの把握を進めていたフィリピンとベトナムでは、2021年度には、現地自治体や政府組織などと連携しながら、対象地域の拡大や検知対象をプラスチックだけでなく、水の濁りや藻の繁殖にも拡大しました。また、現地関係者が廃棄物政策に活かせるように、検出結果をウェブサイトやスマートフォンでいつでも見ることができる情報ダッシュボードも開発しました。有人宇宙システムでは、このようなサービスの提供を東南アジア全域に拡大していくことを計画しています。


スマホ画面で見るダッシュボードのイメージ
出所)JAMSS

インドでは、約1年半かけて実施した本プロジェクトの結果、2022年8月にインド商工省香辛料局がNEC Indiaのブロックチェーン技術を搭載した新しい“eSpiceBazaar”プラットフォームをリリースし、スパイスの取引とトレーサビリティの把握への活用が新たに始まりました。NEC Indiaでは、本プロジェクトの成果を受けて、ブロックチェーン技術を活用したインドのその他のプラットフォーム等へのサービス拡大を計画しています。

     
実証に参加した農家の人々 トレーサビリティ情報のQRコードが付いた商品
出所)A-Lab India

トルコでも、一般社団法人ソトノバが住民の意見を反映してデザインした公共スペースが、2022年度、住民自らの手によって次々と完成し、住民に利用されています。ソトノバの公共スペースのプレイスメイキングの手法とデザイン力は、トルコ国内の自治体などにA-Labによって紹介され、他の地域への拡大が期待されています。

学校跡地に建設されたコミュニティキッチン(Kahrat)

コミュニティキッチンのデザイン画と完成後のオープニングイベント(2022/10/22)

地域に住む猫と触れ合う住民の憩いのスペース(Karşıyaka)

コミュニティ住民による公共スペース建設と完成後の様子

 住民が緑を感じることができる憩いのスペース(Karşıyaka)

コミュニティ住民による公共スペース建設と完成後の様子
出所)UNDP Turkey

2021年度に始まったマレーシアのプロジェクトでは、初年度に、AGCグリーンテック株式会社のフッ素樹脂フィルム「エフクリーン®」と太陽熱を活用した農産物乾燥機の設計と実証機の製作、およびサバ州の2つのコミュニティでの乾燥実験が終了しました。現在進んでいる第2フェーズでは、他地域へのこの食品乾燥機の拡大を進めています。


コミュニティ住民向けの食品乾燥機使用方法の説明 農産物の乾燥実験
出所)A-Lab Malaysia

ブルキナファソでは、株式会社天地人が、地上で測定される降雨情報と天地人が持つ衛星データとAIを統合して、より正確な降雨の測定と予測を実現し、これまで洪水などによる作物への被害を受けていた農家に向けたウェブ上での降雨情報と予測の提供、および携帯電話のショートメッセージでの情報提供が実現しました。


モバイル上で見ることができる画面の例


携帯電話にショートメッセージで届く降雨情報の例
出所)天地人

南アフリカでは2022年1月から、海藻資源研究所株式会社が南アフリカでの海藻養殖に適した海岸の調査や養殖に適した海藻の種類の調査・分析を現地調査も含めて実施し、その結果を受けてA-Labも含めたプロジェクトチームで海藻を活用した産業のバリューチェーンを検討した結果、西ケープ地域で寒天の材料となるオゴノリを養殖し、それを主に日本に輸出する産業を育成することを決定しました。第2フェーズでは、現地コミュニティの参加を得て、オゴノリの養殖と輸出に向けた加工実験を実施する予定です。

2023年1月に開始したジンバブエのプロジェクトでは、大規模な群れで農地に飛来して穀物を食べつくしてしまう害鳥の被害を削減するために、ペガラジャパン合同会社のAI技術を活用した害鳥対策が練られています。現在、AIと組み合わせる、害鳥を追い払う技術を検討中で、2023年の夏には、ペガラジャパンが現地を訪問し、実証実験を行う予定です。

また、サモアでは、大量に破棄されてしまう魚の皮を有効に活用するために、魚の皮をなめしてフィッシュレザーにして財布等の製品を作る技術を持つ株式会社シンクシー (ブランド名:tototo)とのプロジェクトが2023年2月に始まりました。6月から7月にかけてシンクシーシーチームがサモアを訪問して、現地での魚の皮の状況を調べるとともに、魚の皮をなめす手法を現地の人達に伝えています。

このように3年度にわたり、10ヵ国で日本企業とUNDP A-Labが連携して進めてきた、日本の技術とノウハウを活用した開発途上国の課題解決と日本企業のビジネスモデル化のプロジェクトは、これからまとめの時期に入ります。今後は、これらのプロジェクト成果やノウハウをとりまとめ、Japan SDGs Innovation Challengeモデルとして、A-Lab Global Network内での共有、そしてさらに広いパートナーとの連携によるSDGsの達成、そして参加企業のビジネス化をめざした拡大フェーズに入っていく計画です。

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