2017.2.1 『国際開発ジャーナル』2月号へ寄稿記事が掲載されました。
2017-02-01
SDGsの時代 イノベーションがカギ 「SHIPエコシステム」で目標達成へ 日本企業のDNA
「日本企業の持続可能な開発目 標(SDGs)への関心は高いか」 と、海外の関係者からしばしば尋 ねられる。そのたびに筆者は「非 常に高い。そもそも日本企業の DNAには、400年も前からSDGs と相通じる『三方良し』の精神が 組み込まれており、持続可能な社 会を創るために自らの役割を強く 意識してきたのだ」と答える。
「三方良し」とは、「売り手良 し、買い手良し、世間良し」を重 視した近江商人の心得だ。こうし た精神を受け継いだ日本企業は、 今世紀に入って欧米でCSRが声 高に議論されるはるか前から、自 社のビジネスでいかに地域や社会 に貢献するかを熱心に考えてきた。
昨年7月に来日した、国連開発 計画(UNDP)のマグディ・マル ティネス・ソリマン政策・プログ ラム支援局長は、「三方良し」とい う言葉を聞き、「“Win-Win-Win” の関係だ!」と表現した。その通り である。同局長はまた、「国際開 発がQuantity(量)からQuality (質)に移る時、民間企業のノウ ハウが必要になる」とも指摘した。 量から質に移るとは、結果志向で、 より効果が高くスピード感がある 持続可能な開発を行えるかが問わ れるということだ。ここに、イノ ベーションの必要性が生まれる。
実際、「持続可能な開発のため の 2030 アジェンダ」の文書にも、「民間企業の活動・投資・イノベ ーションは、生産性および包摂的 な経済成長と雇用創出を生み出し ていく上での重要なカギである。(中略)われわれは、こうした民 間セクターに対し、持続可能な開 発における課題解決のための創造 性とイノベーションを発揮するこ とを求める」とある。イノベーシ ョンこそ、SDGs達成のカギだ。
「価値起点」への変化
私が専務理事を務める(一社) Japan Innovation Network (JIN)は、企業におけるイノベ ーション活動を、
①システマティ ックなイノベーション経営の必要 性に関する経営層の理解促進
② 社員向けのアクセラレーション (加速支援)プログラムの設計と 共同運営による成果追求
③社会 課題へのソリューションを提供す るイノベーション・プラットフォ ームの構築・運営
などを通じて推進している。
かつて「技術起点」であったイノベーション活動は、近年、「価値起点」のイノベーション活動へ と大きく変化を遂げている。これ はつまり、新しい技術を生み出す ことを目的とすることから一歩進 んで、その技術が顧客や社会に生 み出す価値の方を目的にするよう になったということだ。
その中で、企業が持続的に成長 するためには、既存の事業モデル を安定的に稼動させることと、新 事業創造のエコシステム(生態系)を構築することの二本立てで 成長を追求していくことが必要だ。
新事業を創造する際のエコシステムは、経営者や事業創造人材・ チーム、加速支援者、社内システム、社内インフラから構成される。
これらが相互に作用し合うことで、 試行錯誤を続けながら、生態系のように新しいアイデアが生み出さ れ、実行に移され続ける。
これがイノベーション活動の本質だ。
日本発・世界初の取り組み
SDGsの17の目標をイノベーシ ョンの大目的とし、169のターゲ ットをそこに向かって進むための 駆動目標に据えて、個々の企業が 取り組むことが、SDGs達成に向 けた民間セクターの役割だ。
その上で、そのような企業を核 として、SDGs達成を担う世界各 国の企業以外のステークホルダー も巻き込んだエコシステムを構築 し、そこから起こるイノベーショ ンでSDGs達成をさらに力強く推し進めていこうと、JINと国連開 発計画(UNDP)は考えた。
そうして両者が昨年7月に設立 したのが、「SDGs Holistic Innovation Platform」(SHIP)で ある。これは、日本の民間企業や 各国の政府、開発援助機関、金融 機関、イノベーションハブ、スタ ートアップ企業、NGO、留学生 コミュニティー、大学、メディア、 経済団体、専門家と共に、イノベ ーションによってSDGsを達成す るためのエコシステムを構築する プラットフォームだ。
BOPビジネスやインクルーシ ブビジネス促進のためのプラット フォームは多く存在するが、 SHIPの特徴は「イノベーショ ン」が軸となることである。
これまでそれぞれの企業が独自 に開発してきたBOPビジネスや インクルーシブビジネスのモデル に「イノベーションを起こす手 法」を取り入れ、SHIPエコシス テムの参加者がそれぞれのノウハ ウと知恵と技術を持ち寄り、相互 に作用し合う。それによって、各 社だけでは実現できなかった持続 可能な社会を実現するビジネスを 創り出すことが可能になるととも に、他のエコシステム参加者も SDGsという社会全体の目標達成 に寄与することが可能になるのだ。
このような取り組みは、まだ世 界には見当たらない。「日本発」 のユニークなプラットフォームだと言える。
メンバーの募集を開始 昨年12月に日本を訪問した UNDP のヘレン・クラーク総裁 は、SHIPの発足に歓迎の意を示 し、「SHIP を通じて世界各国の UNDP事務所やステークホルダ ーが日本企業とつながり、SDGs の実現に向けたビジネス活動が加 速することを望む」と語った。
そして今、「このような社会共 通の目標を求めていた。これを経 営戦略に盛り込み、イノベーショ ンを通じてSDGsを達成した い」と、日本企業のSHIPに対す る関心の高まりを強く感じている。
特に、SHIPでは、JINと UNDPが協働することによって 「イノベーション」と「国際開発」が掛け合わさった。すなわち、 各企業の中で新規事業の開発を担 っている経営企画やR&D、イノベーション推進担当などの部署と、 社会貢献や渉外を担ってきた CSRや環境、広報などの部署と の融合が起こり始めている。
SDGsを共通言語に、新たな協働 が起こっているのだ。
JINとUNDPは昨年末、SHIP の趣旨に賛同する法人・個人から 成る「SHIPコミュニティメンバ ー」の募集を開始すると同時に、 SDGsと自社ビジネスの接点を探 り、SDGs達成に貢献するビジネ スモデルを作り出すための企業向 けプログラムの提供を開始した。
さらに、「SHIPデジタルプラ ットフォーム」の構築も進めてお り、今春には、SDGsの実現に向 け、さまざまな課題やニーズの「生情報」を世界中から収集して SHIP会員企業に提供し、これら の企業のビジネスモデル構築に活 用していくことにしている。
われわれは、SHIPこそが SDGsを達成するという最終港に、ともに向かって協働する仲間を広げ、力強い航海を続けることを可能にしてくれると確信している。