[インド] 小規模農家の所得問題

     農業は第一次産業として、私たちの食糧需要を賄う重要な産業です。インドでは総人口の50%を占める1億3600万世帯が農業に従事し、その8割が2ヘクタール未満の小規模農家。このうち、5分の1以上の世帯が貧困層とされています。一方、インドは世界最大のスパイス生産者かつ消費者であり、年間輸出額は28億米ドルにのぼります。この、輸出売上に対し生産者収入が低いという構造には、農業技術とサプライチェーンの不平等が関係しています。

小規模農家の技術的な問題
多くの農家が資金不足に悩まされており、農業機械の普及率は1割程度に止まっています。農家の大半を占める零細・小規模農家は伝統的な農具(人力、畜力)による農作業を行っており、たとえ機械化のために集落での共同利用や農業機械所有者による賃耕活用しても、タイミング良く利用できないなどの問題があります。貯蔵施設の利用も大規模農家に止まり、適切な保存ができない小規模農家は、収穫期に低価格での販売を強いられ、利益が目減りしてしまいます。また、農民の多くは十分な教育を受けておらず、約3割は読み書きができません。自ら望んで農業に従事していない者が多いために向上心は低く、さらなる利益を見込める作物の選択や栽培方法、販売先などを選択することができないと指摘されています。こうした知識不足を埋め合わせるシステムにアクセスする手段がないことも、農業収入が増えない要因となっています。

サプライチェーンの問題
従来農産品は、1954年に制定された農産品流通委員会法(Agricultural Produce Market Committee:APMC)に基づき、州政府管轄の卸売市場である「マンディ」で通商許可を持つ仲買人による農産物の競りが行われてきました。しかし、競争性のない独占的な仲買により、売手である農家は提示された価格を受け入れるしかなく、また過剰な手数料をとられるなど不当な扱いを受けることもあります。農産物が消費者のもとに届くまでには複数の仲買業者の手を渡りますが、農家の売上は最終小売価格の3割前後まで圧縮されているとも指摘されます。
また、多くの地域では安全な交通インフラや保管、加工する環境が整っていないために、商品の形が損なわれるほか、配送が遅れるなど、特に生鮮食品についてはサプライチェーンの過程で約30~40%が廃棄されてしまっています。

SDGsビジネスのチャンス

1991年の経済自由化をきっかけに民間企業が農業セクターに参入できるようになったことから収穫後の農産物の輸送や保管状況が改善、さらにIT革命が相まって農産物市場の効率性も向上してきています。しかし、その改善は未だ小規模農家に浸透しきっていないのが現状です。スパイス農家の技術向上やサプライチェーンに関する課題解決には、企業にとって新たなビジネスチャンスとなる可能性が秘められているのではないでしょうか。