[モンゴル国] 人々に甚大な健康被害をもたらす都市の深刻な大気汚染

モンゴルの首都ウランバートル市は、インドのニューデリー、バングラデシュのダッカ、中国の北京などとともに世界で大気汚染が深刻な都市の一つ。民主化後の経済発展による都市の急激な人口集中が進むにつれ、その汚染レベルは年々酷さを増している。

世界一寒い首都といわれるウランバートル。都市の中心部に住めない貧困層は周辺地域に伝統的な住居「ゲル」をつくり居住する。そこに住む多くの人々が厳しい寒さをしのぐために燃料として利用するのが、安価な石炭や燃やせるもの全て、つまり身の回りのプラスチックゴミ等である。元々、モンゴルのいゆわる貧困層人口は150万人近くといわれ、300万人という国の全人口のほぼ半分が該当する。都市部周辺にそうした人々が居住地域が連なり、有毒なガスを出す燃料で暖を取りそれが甚大な大気汚染を起こす大きな原因の一つとなっているのだ。

世界保健機関(WHO)は、2019年2月、ウランバートルの大気汚染に関するレポートを発表。WHOが推奨する大気汚染の基準値を常態的に上回っていることに懸念を表明。また、大気汚染の最も明白な影響は呼吸器系疾患である一方、汚れた空気によって子どもがその後の人生で糖尿病や循環器疾患を発症する危険性が高くなることが研究で示唆されていること、大気汚染と白血病や行動障害との関連性を指摘している。

この問題に対処するため、2019年5月に自治体政府は石炭の燃焼に対する禁止措置が施行しているが、問題を早急に解決するためには、そうした法律の改正だけではなく、現実的かつ即効性のある解決手段が早急に求められている。

[コンゴ民主共和国] エボラ出血熱ウィルスの感染拡大を増長する諸問題

コンゴ民主共和国では、エボラ出血熱流行が宣言されて約1年が経つ2019年7月現在も、いまだに感染者が増えつづけている。

7月12日時点で発症患者2477人、死亡者は1655人を数え、流行は史上2番目の規模と云われており、また7月15日付けの国際メディア各紙は、大都市ゴマで初の症例が見つかったことで都市部での感染拡大への不安が広がっていることを伝えている。

エボラウイルスは空気感染はせず、感染者の体液や血液に触れることで感染すると云われ、感染拡大は死亡した患者の会葬時や医療器具の不足(注射器や手袋など)によって、患者の血液や体液に触れたことによるものが多いと云われる。患者の早期発見と隔離、医師による適切な治療とそのための施設、備品があれば拡大は抑えられるものと考えられる。

しかし感染拡大を加速している要因の一つに、同国民による医療機関や政府に対する不信感が挙げられている。エボラ出血熱のような症状がみられても、医療機関に行くのを拒否し、患者がそのまま自宅で死亡。そしてその会葬のために死者の体に触れた家族や周囲の人間が感染し、ウィルス感染者が増えるという悪循環が起こっている。また、宗教的、感傷的な理由から、死んだ家族を感染死亡者専用の埋葬地に埋めたくないとして、家族が遺体引き渡しを拒み、ウィルス除染活動の障害となるケースも見られている。

また、更に事態を難しくしているのは、国内の政情不安である。感染がひろがるエリアは紛争の最前線でもあり、現地の医療施設が焼き討ちにあったり、医療従事者が武装集団に襲われ命を落とすといった悲劇も起こっている。

コンゴが位置する西アフリカにおいて、史上最悪のエボラ出血熱感染は2014年のケースであり、当時1万1000人以上が亡くなったと云われている。過去の最悪記録を塗り替えないよう、一刻も早く拡大を未然に防ぐための、または、被害を最小限に食い止めるための解決策が求められている。

[スリランカ] 食生活の欧米化と栄養知識不足による生活習慣病の増大

「2019年のスリランカ国民にとっての最大の健康懸念はNCD(非感染症疾患)である」・・・当該国の英文報道メディアThe Morningはそう伝えた。

スリランカでは今、生活習慣病に代表される非感染性疾患(NCD, Non Communicable Diseases)の広がりが深刻な社会問題となっている。WHOの2018年の発表によると、スリランカにおける死亡原因のうち75%が心臓病などの循環器疾患、がん、慢性呼吸器疾患、糖尿病などのいわゆるNCDであるという。

NCDは食生活習慣を整えることなどで、ある程度予防が可能ではあるが、スリランカでは、幼少期の食生活において、良質なたんぱく質・カリウムなどのミネラルを含む野菜の摂取不足の傾向があり、また、大人も健康管理や食に関する知識にうとく、子供に栄養バランスの取れた食事を提供することの重要性が認識されていない、その領域に関する国民教育が行き届いていない等のことが、社会にとっての課題として指摘されている。

健康的な生活を送るための基本知識である食事や栄養バランスに関する知識の啓蒙や、国民の病気予防に関する知識を高めるための施策が求められている。

[ブラジル] 財政難による治安体制不全により脅かされる女性達の安全

貧困や人権問題に取り組むNGOアクションエイド(ActionAid)が2019年1月に発表した調査結果によると、14~21歳のブラジル人女性の53%は毎日何らかの「嫌がらせ」を受けることへの恐怖を抱えながら暮らしているという。同団体によれば、嫌がらせの恐怖を抱える若年女性の割合は、調査対象となったケニア24%、インド16%、英国14%の4カ国と比べてブラジルが圧倒的に高い。

ブラジルの大都市の中でも、特にリオデジャネイロの治安悪化は深刻さを増している。治安悪化の最大の要因は、州財政の悪化だ。五輪のための多額のインフラ投資により、基礎的財政収支は12年から赤字に転落。16年までの不況で企業からの税収も急減。予算不足により警察官への給料遅配が常態化し、治安を守るべき警官等はストライキで対抗。またパトカーなど治安維持のための重要な装備や備品の故障や欠品も続出し、公共の安全を守る体制が非常に不安定なものとなっている。

2019年5月のThe Rio Timesの記事によれば、ブラジル、リオデジャネイロでの女性に対する暴力犯罪は4573件。そしてそのうちの70%のケースで、被害者が17歳未満の少女達だったという。高まる社会不安が少女達という弱者への暴力に転嫁されているのだ。

犯罪を未然に防ぐための仕組み、非人間的な犯罪行為から少女や女性を守るための仕組み、そして、万が一被害にあってしまった女性たちに対して、温かい心身のケアや社会復帰支援を施すための仕組みが求められている。

[ブラジル] 鉱山ダム決壊による深刻な環境破壊問題

2019年1月25日、ブラジル南東部ミナスジェライス(Minas Gerais)州ブルマジーニョ(Brumadinho)近郊で発生した鉱山ダム決壊事故は、未曾有の被害をもたらした。2月の報道では死者180人近く、行方不明者131人とされる。

また、この決壊により鉱物を含む泥流による広範な地域への環境汚染が心配されている。当局の調査によると、パラオペバ川の下流、120㎞にもわたり、鉛やクロムなどの有毒金属類を含む泥流が大量に流れ込み、川沿いの自然環境や住民生活に影響を及ぼしているという。当局は当該の地域住民に、川の水の飲用、酪農や農業への使用を控えるよう注意を呼び掛けている。

ダム決壊の原因は建設コスト削減などによる欠陥構造によるものとの見方もあり、従業員や周辺地域の住民に対する安全確保意識の欠如、重金属を含んだ土砂が大量に流出することによる環境への影響の重大さなど、同ダムの保有者である鉄鉱石世界最大手ヴァーレ社の企業モラルに対する批判が高まっている。

同社の鉱山ダムでは3年前にも同様の事故が起こっており、また今年5月にはバロージコカイス(Barao dos Cocais)にある同社の別のダムについても「いつでも崩壊の危険がある」との発表がなされ、同地域住民の不安が高まっている。

鉄鉱石が国の重要産業の一つであるブラジルにおいて、その産業が周辺地域の人々や環境と共存共栄するためにも、こうした災害を二度と繰り返させないための具体的な解決策が求められている。

[リベリア] 盗電の横行により更に遅れる電気インフラ整備

リベリアでは1989年から14年続いた内戦により、国内の発電・送電の設備が激しく破壊された。政府は、その後の経済発展をさらに押し進めるべく、現在電力供給インフラを修復し、新しい設備の敷設を進めようとしている。

政府は2030年までに首都モンロビアの70%以上の世帯に電気が普及することを目指しているものの、内戦での破壊や老朽化によって現在使われている配電設備は、損傷も激しく機能していないものも多い。そうした設備の刷新を早急に進めるためにも、十分な資本を得ることが急務となっているが、電気料金を徴収できない問題に直面し、資金調達が難しくなっている。

一番の原因は市民による違法な電力使用、つまり「盗電」の横行である。

メディアの調査によれば、リベリアで電力会社が送電する電気のおよそ60%が「違法に盗まれている」との見方もある。電気料金をまともに回収できない電力会社は、いくら電力を供給してもひたすら赤字となり、コストを回収することが出来ず、また設備刷新のための資金も得られない。送電設備の整備が進まず、ますます電力化が遅れる、という悪循環に陥っている。

電気代を正しく徴収できるようになること、盗電を助長しないことや防ぐこと、または安価な送電設備や供給のためのアイデアなど、様々な解決策が求められている。

[インド] 宗教や因習により改善が進まないトイレの設置

インドでは国民の半数以上、つまり6億以上の人々が昔から続く屋外排泄の習慣をいまだに続けている。このことにより不衛生による感染症の拡大、女性に対する犯罪の助長など、数々の深刻な社会問題が引き起こされている。この屋外排泄習慣の是正を最大の課題の一つとするモディ首相の主導の下、国内外からの支援によってここ数年急ピッチで公衆トイレの設置が進められている。だが、トイレの実際の利用率は上がっておらず、いまだに屋外排泄を続ける人が多いのが現状である。

特に言われているのは宗教による価値観の問題である。同じインド国民でも、特にイスラム教徒よりヒンズー教徒のほうが、屋外排泄を好むと言われている。かれらは、仮に自分の家に使えるトイレが設置されていたとしても、敢えて屋外排泄を選ぶ傾向があると言われている。これにはいくつか理由がある。一つはヒンズー教徒には「浄」と「不浄」の概念があり排泄は「不浄」。それを自分のいる場所(家)からは、できるだけ遠ざけたいという心理があるらしい。また、トイレのメンテナンスや維持管理は「不浄なこと」の一部であり、それをやるのは「カースト制度の下層の人々」という社会認識が根強い。トイレそのものに関わることを忌み嫌う傾向があるのだ。

そうした人々の意識もあり、国の政策でその地域に公衆トイレが設置されても、それを維持管理する人がいない。また自治体がそれを管理するための仕組みやルールを整えないことから、一部のトイレは上下水道の整備もなく全く使えないものであったり、大雨の際にタンクに溜まった汚物があふれ出て汚染被害がでる等、持続可能な形での利用がされていない状態となっている。結果、トイレとして設置したはずの建物を、近隣の農民が農具や燃料(牛糞)の保管場所として使うなど、本来の目的を全く果たしていない状況となっている。

問題の背景、そして人々の文化や価値観をきちんと理解し考慮したうえでの、持続可能な解決策の考案が求められている。

[メキシコ] 人口過密都市から追い出された貧困層の劣悪な住環境

メキシコの首都メキシコシティでは人口過密により土地価格が高騰し、収入の低い貧困層の人々は街を出ざるを得ない状況となっている。

国の都市計画に則った圏内の住宅地に住居を構えられない彼らは、郊外に出ていかざるを得ない。例えば同国政府の定義で「都市計画対象外」地区にあたるラ・クエスタには2000年以降、そうした貧困層の住民が増え続けている。しかし、そのような地域に上下水道や電気などのインフラが整備されることはない。特にその地区には地下に石油パイプラインも通っており安易に地下を掘って工事をするということもできない。

また、住居自体も自らの手で廃材や段ボールを用いて作った非常に簡素で脆弱な家屋であり、住まいとしての基本的な設備や空間条件を満たしていないものが多い。

また、貧困層は同居する家族の人数が多い傾向があるが、まともな住宅建材なしには大きな建物は作れず、極めて狭小なスペースを大人数で共有しなければならず、精神衛生的な害も受けやすい環境となっている。なお1部屋に2人以上で住むメキシコ国民は約3400万人にも上ると言われており、都市ではその比率が更に高い。

簡素な作りで、なおかる極狭小スペースでの大家族の生活は、家族一人一人のプライバシーを保つこともできず、互いにストレスを抱え、フラストレーションを為、子供たちの家出や放蕩を招き、ひいては非行に走らせる要因にもなりかねない。

都市部に住む低所得層が健康的な生活を送るための最低限の条件を備えた住環境が求められている。

[ミャンマー] 都市住民の防災知識の低さによる火災被害拡大の危険性

ミャンマーのヤンゴン市では人口の急増により様々な問題が発生しているが、中でも人口密集地の火災の危険性に対する住民の意識の低さが問題視されている。

2018年9月、Maha Bandoola Gardenストリートで起こったホテル火災では子供を含む14名の宿泊客が屋上に追いやられ煙による一酸化炭素中毒により病院に搬送される事態となった。

また、様々な有害廃棄物が処理されるHtein Bin廃棄物処理場において、同年4月に起こった大規模火災は、約5日間も続き、都市の一部が有害煙にすっぽりと覆われ住民の健康への影響が懸念された。

ヤンゴンは、急速に発展する都市と裏腹に火災に対する法律はまだ未整備な部分が多く、また、防火や防災に対する住民の知識、意識も未発達な状態である。例えば人々は自分の家の中に消火器を置く意味をよく理解していない。また、住民の警察に対する不信感によるものなのか、火事を出すことで警察からの事情聴取を受けるのを嫌がる心理があるらしく、たとえ火が出ても、小さい出火ならすぐに通報せず、まずは自分で何とかしようとする傾向があるという。当然、火の手が大きくなると自分の手には負えなくなり、その段階では大規模火災の可能性を孕むような非常に危険な状態に陥るのだ。

都市における火災の恐ろしさ、防災意識の重要性を周知するため、火災発生時の正しい対処法や避難の仕方など、被害を未然にまたは最小限に食い止めるための知識に関する教育や情報共有の仕組みが必要とされている。

[インドネシア]地震多発国における災害予知システムの老朽化及び不備による被害拡大

2018年9月末に起こったインドネシア・スラウェシ島地震では、大地震および津波により死者2千人超、損壊家屋約6万7千軒、避難住民8万7千人以上(2018年10月時点)という甚大な被害となった。

被害拡大の原因の一つは、インドネシアの当該地域で設置された地震予知・警報システムの故障や不備などであったことが後日判明。この、2008年に税金や他国からの支援を受けて設置された地震予測のための計器やシステム(地震計、津波計測ブイ、検潮器等)は、地殻変動や潮位変化の情報を迅速に集め、緊急体制を敷いたり、住民への緊急警報を発するためのものであったが、それらのほとんどが全く機能していなかった、と報道されている。

また、このシステムの故障や動作不備に加え、住民の中には「ツナミ」という言葉すら知らない人がいるなど、地震大国インドネシアにおいて、地震や自然災害に対する国民の予備知識レベルが低いことも対応の遅れを招き、被害を拡大した一因として問題視されている。

地震による被害をできる限り最小限に抑えるため、防災システムの維持管理の方法、また、住民の災害に対する意識や知識のレベルを上げるような工夫、解決策が求められている。